東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)177号 判決
一 原告ら主張の請求原因事実1及び2は当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の存否について検討するに、右請求の原因2の審決の理由の要点によれば、審決は、本件意匠と同種の意匠において、引手を平板状のものにする、切開線や面を形成した部位の周辺又は引手を引き起すときに適切な部位に小半円形又は角丸の小台形状等の摘みを形成したものにする、等のことが本件意匠の登録出願前に普遍化していたことを前提として、その認定した本件意匠と引用意匠との切開部の引手の差異を各部の部分的な差異又は細部的な差異にすぎないものとし、ひいて、本件意匠が引用意匠と全体的に類似すると判断したものであることが明らかであるが、本件においては、審決がその判断の前提とする前記事実について、これを認めるに足りる証拠はない。したがつて、審決の前記判断は誤りとしなければならず、また、その誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきものであることは明らかであるから、審決は、違法としてこれを取り消すべきものである。
三 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。
〔編註その一〕 本件における事実関係は左のとおりである。
一 原告らの求めた裁判及び主張
原告らは、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。
1 原告らの意匠権及び特許庁における手続の経緯
原告らは、昭和四九年九月二七日登録出願、昭和五一年九月二五日設定登録にかかり、意匠に係る物品を「包装用容器の封印冠」とし、別紙(一)のとおりの構成を有する登録第四三八三一四号意匠(以下「本件意匠」という。)の意匠権者であるが、被告が、昭和五三年六月二一日、原告らを被請求人として、本件意匠の無効審判を請求したところ、特許庁は、これを同庁同年審判第九五〇〇号事件として審理した上、昭和五九年六月一二日、「本件意匠の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は同年六月一九日原告らに送達された。
2 審決の理由の要点
(一)本件意匠
本件意匠は、その全体としての構成態様を別紙(一)に示すとおりにしたものと認める。
(二)引用意匠
これに対し、実開昭四八―二六一〇八号考案(考案の名称「金属製封緘部材」)を掲載した昭和四八年三月二九日付け公開実用新案公報には、意匠に係る物品を「包装用容器の封印冠」とし、全体としての構成態様を別紙(二)に示すとおりにした意匠(以下「引用意匠」という。)が記載されていることが認められる。
(三)両意匠の対比
本件意匠と引用意匠とを比較検討するに、両意匠は、意匠に係る物品が一致していると認められるものであり、意匠に係る形態についても、全体を構成する各部の構成態様においても、封緘部につき、周胴面を偏平な円錐台筒形にし、その上方周縁には内側方に環状縁面が現れるよう中央の部位に円形孔を形成したものとしている点、切開部につき、細幅の円環状に形成した引手を環状縁面に沿つて、その外周縁の一端が環状縁面の内側周縁と連続して現れるよう一体状に設けたものとしている点等の各部の基本的形状及びそれらを総合した全体の基本的な構成態様が一致していると認められるものであり、さらに、各部の具体的な構成態様においても、後記の各点に差異が認められるのみであつて、その余を殆ど一致又は共通するものにしていると認められる。
すなわち、両意匠は、各部の具体的な構成態様のうちの封緘部につき、本件意匠は、周胴面をほぼ円筒状にし、下端周縁のみが円錐台筒形状となるよう形成しているのに対し、引用意匠は、周胴面を円錐台筒状に形成している点、また、切開部につき、本件意匠は、引手を環状縁面と同一の厚さの平板状に形成したものであつて、内側周縁の一端から中心方向を角丸の小横長台型状の摘みを形成したものとし、その引手を環状縁面と連続した開封面及び細幅の吊り片三個により環状縁面との間に細溝が現れるよう設けたものとしているのに対し、引用意匠は、引手を内側縁に丸線による環状突起が現れるよう形成したものとし、摘みを形成しないものとしている点、その他、開封面の両端に切開線を形成し、開封面と対向する部位の吊り片のみを二片にしている点で、それぞれ差異が認められる。
(四)両意匠の考察
以上の両意匠における各事実を総合し、両意匠を全体として考察するに、両意匠における前記の各差異点のうち、封緘部の周胴面の差異は、本件意匠が、その出願前、意匠に係る物品を「包装用容器の封印冠」とした意匠において、偏平な円筒状のものとして普遍化していたとおりの単純な形状のものに改変したことによつて生じた微差にすぎないと認められ、切開部の引手の差異も、本件意匠が、その出願前、同種の意匠において、引手を平板状のものにする、切開線や面を形成した部位の周辺又は引手を引き起すときに適切な部位に小半円形又は角丸の小台形状等の摘みを形成したものにする等のことに基づき、それぞれ普遍化していたとおりの単純な形状のものに改変をした又は普遍化していたとおりの摘みを僅かに突出するよう形成した等の改変をした結果生じた差異にすぎないものと認められ、その他、切開線の有無、吊り片の数等の差異も、本件意匠がそれぞれ普遍化していた範囲内のものに改変をしたことによつて生じた微細な部位における差異と認められるものであり、いずれも各部の部分的な差異又は細部的な差異にすぎないと認められるものであり、引用意匠と意匠に係る形態のうち、前記のとおりの各差異点が認められるものであつても、前記のとおり意匠に係る物品について一致しており、意匠に係る形態についても、その殆どが一致又は共通していると認められる本件意匠は、全体として引用意匠に類似するといわざるをえない。
(五)したがつて、本件意匠は、意匠法三条一項三号に規定した意匠に該当するものであるから、その意匠登録は無効にすべきものとする。
3 審決を取り消すべき事由
審決は、本件意匠と同種の意匠において、引手を平板状のものにする、切開線や面を形成した部位の周辺又は引手を引き起すときに適切な部位に小半円形又は角丸の小台形状等の摘みを形成したものにする、等のことが本件意匠の登録出願前に普遍化していたことを前提として、その認定した本件意匠と引用意匠との切開部の引手の差異を各部の部分的な差異又は細部的な差異にすぎないとし、本件意匠が引用意匠に全体として類似すると判断しているが、審決が前提とする右事実を認めるに足りる証拠はなく、したがつて、右判断は誤りであり、その誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきことは明らかであるから、審決は取り消されるべきである。
二 被告の求めた裁判及び主張
被告は、本件各口頭弁論期日に出頭しないが、陳述したものとみなした答弁書の記載によれば、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、「請求の原因1及び2の事実は認める。」と述べた。
〔編註その二〕 本件に関する別紙は左のとおりである。
別紙 (一)
説明 背面図は正面図と、右側面図は左側面図と同一にあらわれる
<省略>
別紙 (二)
<省略>